近年、日本では大きな地震や台風、線状降水帯による豪雨など、自然災害が頻発しています。
災害はいつ発生するか分かりません。企業ではBCP(事業継続計画)の整備や防災訓練、安否確認システムの導入などが進んでいますが、一方で見落とされがちな課題があります。
それが「言語の壁」です。
外国人社員や海外からの来訪者、外国人観光客が増え続ける日本では、災害時の情報発信やコミュニケーションが企業の重要な責任の一つになっています。
今回は、災害時に生じる言語の課題と、企業が今からできる備えについて考えてみます。
災害時に起こる「情報格差」
災害発生時には、
- 避難情報
- 交通機関の運行状況
- ライフラインの復旧状況
- 医療機関の案内
- 行政からの緊急情報
など、多くの情報が次々と発信されます。
しかし、日本語が十分に理解できない人にとって、これらの情報を正確に理解することは容易ではありません。
特に日本語には、
- 「避難指示」
- 「高齢者等避難」
- 「土砂災害警戒情報」
- 「線状降水帯」
など、日本人でも理解が難しい行政用語が数多く存在します。
単純に単語を翻訳するだけでは、本当に伝えたい危険度や緊急性が伝わらないケースも少なくありません。
外国人従業員が増える企業だからこその課題
近年、多くの企業で外国人社員や技能実習生、高度外国人材の採用が進んでいます。
普段の業務では問題なくコミュニケーションが取れていても、災害時には状況が一変します。
例えば、
- 会社からの避難指示が理解できない
- 在宅勤務への切り替え方法が分からない
- 出勤可否の判断基準が伝わらない
- 家族への説明ができない
など、不安や混乱が生じる可能性があります。
また、日本特有の災害文化に慣れていない外国人にとっては、「まず何をすべきか」が分からないことも珍しくありません。
そのため企業側には、多言語で正確かつ分かりやすく情報を伝える体制が求められます。
AI翻訳だけでは十分ではない場面も
近年はAI翻訳の性能が大きく向上し、災害時の情報共有にも活用されています。
スピーディーに多言語へ翻訳できることは大きなメリットです。
しかし、
- 行政独特の表現
- 避難行動に関わる重要な案内
- 社内独自のルール
- 人命に関わる注意事項
などでは、翻訳の正確性が非常に重要になります。
わずかな翻訳ミスが大きな事故につながる可能性もあるため、重要な情報ほど人による確認(ポストエディット)や専門翻訳の重要性が高まります。
AIと人の翻訳を適切に組み合わせることが、安全で正確な情報発信につながります。
通訳が必要になるのは災害発生後だけではない
災害時の通訳というと、避難所や行政機関をイメージする方が多いかもしれません。
しかし企業でも、さまざまな場面で通訳が必要になります。
例えば、
- 海外本社への状況報告
- 海外取引先との納期調整
- 外国人社員への緊急説明会
- 海外メディアへの対応
- 被害状況のオンライン会議
緊急時だからこそ、誤解のないコミュニケーションが求められます。
平常時には問題なかった英語力でも、緊迫した状況では正確に伝えることが難しくなるケースは少なくありません。
そのため、必要に応じて通訳を活用できる体制を整えておくことも、企業のリスクマネジメントの一つと言えるでしょう。
平常時の準備が企業を守る
災害は「起きてから対応するもの」ではなく、「起きる前に準備しておくもの」です。
言語対応についても、あらかじめ準備できることは数多くあります。
例えば、
- 災害マニュアルの多言語化
- 避難経路や社内掲示物の翻訳
- 外国人社員向け防災ガイドの作成
- 緊急連絡テンプレートの多言語化
- 通訳・翻訳会社との連携体制の構築
こうした準備は、実際の災害時だけでなく、外国人社員に安心して働いてもらえる環境づくりにもつながります。
「伝わること」が命を守る
災害時に最も重要なのは、「情報があること」ではなく、「正しく伝わること」です。
日本では今後も自然災害と向き合っていくことが避けられません。
だからこそ企業には、防災設備やBCPだけでなく、「言語の備え」という視点も求められています。
翻訳や通訳は、単なる言葉の変換ではありません。人の安全を守り、企業活動を支える重要なインフラの一つです。
外国人社員や海外との取引が当たり前になった今だからこそ、災害時にも確実に伝わるコミュニケーション体制を整えておくことが、企業の信頼につながるのではないでしょうか。
田中達大(マーケティング担当)
2020年カルテモ入社。翻訳コーディネーションを4年ほど担当し、現在は通訳・人材事業、営業、マーケティングを担当。前職は旅行会社にて中南米地域を扱う。中南米のほとんどの国を訪れたことが自慢。