「外国語を話せなくても、AIがリアルタイムで通訳してくれる」
そんな未来が、少しずつ現実になりつつあります。
近年、生成AIや音声認識技術の進化によって、話した言葉をリアルタイムで別の言語に変換するサービスが登場しています。スマートフォンやPCを使って会話を翻訳できるサービスも増え、外国語でのコミュニケーションは以前よりも身近なものになりました。
こうした技術がさらに進化すれば、「通訳者を呼ばなくても、AIが通訳してくれる」という場面も増えていくかもしれません。
では、AIによる同時通訳が普及すると、人間の通訳者は必要なくなるのでしょうか。
今回は、AI通訳の進化と、人間の通訳者だからこそできることについて考えてみます。
AIによる「リアルタイム翻訳」はどこまで進んでいる?
これまでの機械翻訳は、文章を入力して別の言語に翻訳するという使い方が中心でした。
しかし現在は、音声認識、機械翻訳、音声合成などの技術が組み合わされ、話した内容をリアルタイムに近い形で別の言語へ変換することが可能になっています。
例えば、海外の人との簡単な会話や旅行先でのコミュニケーションなどでは、スマートフォンを使ったAI翻訳でも十分に意思疎通できる場面が増えています。
さらに生成AIの登場によって、単語を一つひとつ置き換えるだけではなく、前後の文脈を踏まえて自然な文章を生成する能力も向上しています。
「外国語を話せないからコミュニケーションができない」という場面は、今後さらに少なくなっていくかもしれません。
それでも、ビジネスの現場では「言葉」だけでは足りない
では、AIがここまで進化したのであれば、ビジネスの会議や商談でもAIを使えば十分なのでしょうか。
ここで重要になるのが、通訳の役割は、単に言葉を別の言語へ変換することではないという点です。
例えば、海外企業との商談で、
「それは少し難しいですね」
という発言があったとします。
この言葉は、本当に「少し難しい」という意味なのか、それとも「今回は断りたい」という意味なのか。
あるいは、「条件を変更すれば可能性がある」というニュアンスなのか。
同じ言葉でも、声のトーンや表情、会話の流れ、相手との関係性によって意味は変わります。
通訳者は、話された言葉だけではなく、こうした周辺の情報も含めて、その場に適した表現へと通訳しています。
通訳者は「言葉」だけでなく「場」を見ている
人間の通訳者が担っている役割の一つに、その場の状況を理解することがあります。
例えば国際会議では、発言者が話している内容だけでなく、
- 誰に向けて話しているのか
- どのような立場の人が参加しているのか
- これまでどのような議論が行われたのか
- 発言の背景に何があるのか
- どの程度の丁寧さで伝えるべきなのか
といった情報を考慮しながら通訳する必要があります。
特にビジネス交渉では、言葉の選び方一つが相手との関係に影響することもあります。
例えば、相手の発言をそのまま強い表現で伝えることで、意図せず相手を刺激してしまう可能性もあります。
通訳者には、発言者の意図を損なわず、かつ聞き手に適切に伝わるように言葉を選ぶことが求められます。
専門知識も通訳の重要な要素
もう一つ、人間の通訳者が重要な役割を果たすのが、専門分野に関する知識です。
例えば、製造業の技術会議、IT企業の商談、金融に関する会議などでは、一般的な英語だけでは対応できません。
専門用語や業界特有の言い回しを理解していなければ、正確な通訳は難しくなります。
また、専門用語を知っているだけではなく、その言葉が「この会議では何を意味しているのか」を理解する必要があります。
そのため、通訳者は事前に資料を読み込み、業界や企業、製品について調べるなど、準備を行ったうえで通訳に臨みます。
この「事前準備」も、通訳の品質を大きく左右する重要な仕事です。
AIと人間は「どちらか」ではなく「使いこなす」時代へ
ここまで見ると、「AIでは通訳できない」と思うかもしれません。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
AI通訳には、人間にはないメリットがあります。
例えば、簡単な会話であればすぐに利用できますし、大量の情報を処理することも得意です。時間や場所を問わず利用できることも大きなメリットでしょう。
一方、人間の通訳者には、文脈を理解し、相手や状況に合わせて表現を調整するという強みがあります。
そのため今後は、
AIと人間のそれぞれの強みを理解し、適切にAIを使いこなす
という考え方が重要になってくるのではないでしょうか。
通訳者の仕事も変わっていく
AIの進化によって、通訳者の仕事そのものも変わっていく可能性があります。
これまで通訳者に求められていたのは、「外国語を正確に聞き取り、別の言語で伝える能力」でした。
もちろん、これは今後も重要です。
しかし、それに加えて、
- 専門分野への理解
- 会議や商談の目的を理解する力
- 相手の意図を読み取る力
- 状況に応じて表現を調整する力
- AIなどのツールを適切に活用する力
といった能力も、より重要になっていくでしょう。
AIが「言葉を変換する」ことを担うようになればなるほど、人間の通訳者には、単純な言語変換ではない価値が求められるようになるのかもしれません。
「伝える」から「伝わる」へ
外国語でのコミュニケーションにおいて、本当に重要なのは、言葉を別の言語に変換することではありません。
最終的な目的は、相手に意図が正しく伝わり、コミュニケーションが成立することです。
AI同時通訳がさらに進化すれば、外国語を理解するためのハードルはこれまで以上に低くなるでしょう。
一方で、重要なビジネスの場面では、言葉の裏側にある意図や文化、相手との関係性まで考える必要があります。
AIが進化するからこそ、人間の通訳者にしかできないことが、より明確になっていく。
これからの通訳は、AIと競争するのではなく、AIを活用しながら「伝わるコミュニケーション」を支える仕事へと進化していくのではないでしょうか。
田中達大(マーケティング担当)
2020年カルテモ入社。翻訳コーディネーションを4年ほど担当し、現在は通訳・人材事業、営業、マーケティングを担当。前職は旅行会社にて中南米地域を扱う。中南米のほとんどの国を訪れたことが自慢。